氏の変更の申立

私事であるが、今から数年ほど前に日本から妻を迎える事になった。

ちなみに当時の私はグリーンカードしか持っていなかった。

グリーンカード保持者の外国人が、アメリカに自分の婚約者(あるいは配偶者)を呼び寄せる事は不可能ではないのだが、ビザの優先度はそれこそ最低に近く、3年から下手をすると5年ぐらいかかる事が当時はザラであった。

(皮肉なことにトランプ政権になってからアメリカ人配偶者用のビザの申請処理を意図的に遅らせている結果、逆に外国人配偶者ビザの処理スピードが上がるという逆転現象が起きている)。

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このため多くのグリーンカード保持者は、アメリカに帰化してアメリカ国籍を手にれ、それで日本から婚約者なり配偶者なりを呼び寄せる方法を取る事となる。

こうすればアメリカ人と外国人との国際結婚となり、ビザの優先度はほぼほぼ最優先となるからだ。

ご多分に漏れず自分もその道を辿る事となった。

 

 

以前にも述べた事があるが、今の日本の法律下では、成人した日本人が自らの意思に基づいて他国の国籍を取得した場合、自動的に日本の国籍を喪失する事となっている。

そして漢字を使わない国へと帰化した場合、公式に漢字の姓名を名乗る事は出来なくなり、日本の役所関連の手続きなどは全てカタカナで名前を表記するという元日本人にとってはダサさが溢れかえる事態となる。

そしてこの非常にダサい状況は結婚した相手にも及ぶ。

 

妻は結婚後、私の姓を名乗る事となったのだが、書類上はアメリカ人との国際結婚となったため、戸籍に姓はカタカナで表記される事となった。

(例: 私の姓がアメリ帰化前に『山田』だとした場合、アメリカ人なので漢字姓は使う事は出来ず、妻の戸籍において『ヤマダ』とカタカナで登録される)

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生まれた時から日系人というのならそれも仕方ないのかも知れないが、元日本人の矜持か、どうもこのカタカナ姓というのは受け入れ難かった。

せめて妻だけでも私がかつて有していた漢字姓に変更できないものかと思い、妻の一時帰国中に最後の住民票があった東京家裁に対して戸籍法第107条に基づいて「氏の変更許可の申立」を行う事とした。

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戸籍法によるならば「やむを得ない事由」あるいは「正当な事由」がある場合、氏(姓)の変更が認められる事となっている。

ところがこの「やむを得ない事由」あるいは「正当な事由」というのは判断基準が明確ではなく、大別して大体以下の様な時に認められる可能性が高いとされている。

 

【やむを得ない事由】
・婚姻前の氏に戻したい。
・婚姻中に称していた氏にしたい。
・外国人の配偶者の氏にしたい。

・奇妙な氏である。
・むずかしくて正確に読まれない。
・通称として永年使用した。
・外国人の父・母の氏にしたい。
・外国人の配偶者の通称にしたい。


【正当な事由】
・奇妙な名である。
・むずかしくて正確に読まれない。
・同姓同名者がいて不便である。
・異性とまぎらわしい。
・外国人とまぎらわしい。
・神宮・僧侶となった(やめた)。

・通称として永年使用した。

 

妻は私と結婚する前、珍しい名前で、それこそ漢字一文字の姓であった。

さらに名前も漢字にて一文字だったので、例えば「宗 葵 」の様に一見すると大陸出身の様な印象を受け、そのために幼い頃からからかわれたり、日本人では無いと思われていた様である。

 

取り敢えず以下の「裁判所」からのリンクから「氏の変更許可の申立書」をダウンロードして、必要事項を記入した。

www.courts.go.jp

 

氏の変更許可の最も重要視される「申立の理由」としては以下を挙げた。

 

1. 夫(つまり私であるが)は1年前にアメリカに帰化する前に漢字姓を有していた。

2. 旧姓が変わっていて、中国の人に間違われることがあった。

3. 旧姓が変わっていたため幼少期にからかわれたり、嫌な思いをしたことがあった。

4. 夫の母も存命で、漢字姓を有している。

5. 夫の母との姻戚関係を円滑に行うために、漢字姓への変更をお願いしたい。

 

記入した申立書にコンビニで購入した収入印紙を貼り、以下の東京家裁の説明にあった様に、細かく指定された連絡用の切手を購入して同封し、妻が直接家庭裁判所に出向いて申立を提出した。

http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/D25-1-3.docx

 

ちなみにこの時に真っ先に聞かれたのが、どれだけ日本に滞在出来るかだったそうだ。

氏の変更の申立の場合、審判謄本が出てから二週間の異議申し立ての期間が必ず発生するため、どれだけ最速で処理しようとも一ヶ月では厳しいと告げられた。

ただこちらの状況も鑑みてくれて、努力だけはしてくれると言ってくれたらしい(ありがたい話である)。

 

申立書を提出してから4日ぐらいしてから裁判所から妻に電話があり、参与員によって審理・聞き取りが行われる日が数日後に設定された。

氏の変更を行うにやむ終えない事情を証する書類として、妻には以下のものを持たせた。

 

1. 夫である元日本人の除籍謄本(元々の漢字姓を証明するため)

2. 夫のアメリ帰化証明書の謄本 (アメリカ移民局から発行して貰ったG-24)

3. 上記の和訳 (自分で翻訳してサイン済みのもの)

4. 妻の現在のカタカナ姓の戸籍謄本

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参与員による聞き取りは、申立理由の再確認と「保守的な裁判官によっては許可されない事もあるので、こればっかりはやってみないと分からない」という10分程度のものだったらしい。

その後、裁判官による結審を仰ぐ事となった。

 

果たしてその結果・・・「許可」となり、審判書謄本が即日発行される事となった!

https://asahi-sale.com/wp/wp-content/uploads/2019/02/law8.jpg

 

その日の内に確定証明書の申請を行い、あとはひたすら14日間の異議申し立て期間を待つ事となった。(異議申し立てを行うような、そんな奇特な人はいないと思うが法律で決められている以上は仕方ない)

 

ただここで問題となって来たのは、妻の日本滞在のリミットである。

異議申し立ての期間の二週間を過ぎてしまうと、妻がニューヨークに戻って来る日の方がどうしても先に来てしまう。

 審判の結果を戸籍に反映させるためには、確定証明書を区役所に提出しなければならない。

調べた結果、確定証明書の提出は本人である必要は無く、使い人でも大丈夫という事がわかった。

あとは確定証明書に付随させる申請書類だが、これは全国共通である事を良い事に、札幌市のホームページからダウンロードさせて貰った。

www3.city.sapporo.jp

  

ただここで悩んだのが、最後の届出人の署名押印の部分である。

私自身は戸籍を喪失しているため、厳密には妻の戸籍に入籍している訳ではなく、外国人として言わば付随している様な状態だからだ。(外国人には戸籍が無いので、入籍そのものが厳密には出来ない)

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分からない場合はもう全パターン分を準備するしかないという事で、取り敢えず以下の3パターンを用意しおいた。

 

1. 戸籍筆頭者の妻だけが署名押印したもの

2. 戸籍筆頭者の妻の署名押印プラス私の署名と押印(アルファベットで作成した印鑑)

3. 戸籍筆頭者の妻の署名押印プラス私の署名とアメリカで使用している直筆サイン

 

妻がニューヨークに戻って来て数日してから後、家庭裁判所から郵送にて確定証明書が妻の実家に届いた。

前もってお願いしていた妻の母親(私にとっての義母)に、妻の本籍地のある目黒区役所に上記の3つの書類と共に行って貰い、氏の変更届を完了して貰った。

残念ながら準備した3パターンの内のどの書類が受け付けられたのか、義母に確認しなかったので、詳細は不明であるが、とにかく受理はして貰えた。

 

それから半年して後、妻が再び一時帰国したので実際に自分の戸籍謄本を取って貰い、無事に私が以前使用していた漢字姓へと氏の変更が完了した事を確認した。

 

蛇足ではあるが、今回の様に申立によって氏の変更を実施した場合、例え離婚したとしても旧姓に戻ることは出来ない。

その場合は再度、氏の変更届けの申立にて改姓する必要がある。

 

#氏の変更 #姓の変更 #国際結婚